【中国】「広東省高級人民法院の労働争議案件の審査における難解問題に関する回答」 についての解説 ②

2017年8月1日より実施開始した「労働争議案件の審査における難解問題に関する回答」(以下『回答』と呼称)に関する第2回目(計4回)の解説となります。今回は4つの事項について解説を述べます。

1.  『回答』 第9条
問題: 企業の住所移転(引越し)により生じる労働契約の履行に関する問題はどのように処理されるか。

回答: 企業がその成長・発展のために住所移転する場合、「労働契約締結時に根拠としていた客観的な状況に重大な変化が生じた」状況に当てはまるため、雇用者は労働者と協議の上で、労働契約の内容を変更すべきである。労働契約の変更が合意に至らず、労働者が労働契約の解除及びそれによる経済補償金の支払を雇用者に要求する場合、裁判所はこれを支持する。
但し、企業の住所移転が労働者に大きな影響を与えず、且つ雇用者が通勤バスの手配・交通手当の支給などの合理的な処置を取っており、労働者の労働契約の解除理由が不十分である場合、雇用者は労働契約の解除による経済補償金を支払う必要はない。

解説: 「労働契約法」第40条によれば、「労働契約締結時に根拠としていた客観的な状況に重大な変化が生じた」状況に当てはまる場合、雇用者は労働者と協議の上で、労働契約の内容を変更しなければなりません。労働契約の変更が合意に至らない場合、雇用者は30日前に書面通知するか、又は一ヶ月分の給与を支払うことで、労働者と労働契約を解除することができます。また、広東省人力資源・社会保障庁「企業高度化転換における労使争議の予防処理に関する意見」(粤人社規「2013」3号)は、「企業の体制改革、移転、持分変更、高度化(来料工場の法人化)などにより、企業が同市内で移転し、従業員が本市の公共交通機関を利用し通勤する、若しくは企業が交通手当を支給したり無料交通手段を提供したりする処置を取り、従業員の生活に大きな影響を与えない場合、労働契約は継続して履行する」と定めています。深セン市中級法院の「深セン労働争議裁判手引」第80条には、「深セン市の会社が同じ深セン市内で住所移転を行い、労働者がそれにより経済補償金を要求する場合、裁判所はこれを支持しない。深セン市外へ移転を行い、労働者が経済補償金を要求する場合は、これを支持する」と規定されています。
当該『回答』第9条は、企業の住所移転による経済補償金の支払に関する問題を更に明確にしており、住所移転による労働契約の変更について、先ず「労働契約法」第35条の規定に基づき協議の上で書面にて労働契約を変更しなければならず、合意に至らない場合は経済補償金を支払わなければなりません。但し、労働者に大きな影響を与えず、且つ雇用者が合理的な処置(通勤バスの手配・交通手当の支給など)を取った場合を除きます。即ち、企業の住所移転により労働契約が履行不能な状況が生じたか、若しくは労働者の労働契約の履行に大きな影響を与えるかどうかが、経済補償金支払の必要性に関する判断基準になると思われます。

2. 『回答』 第11条
問題: 非合法雇用者の負傷・死亡人員が、雇用者への一時金賠償支払の要求を直接裁判所に提訴することは可能か。

回答: 非合法雇用者の負傷・死亡人員(遺族を含む)により関連行政部門が発行した非合法雇用処理意見に基づき、雇用者に一時金賠償を要求することを支持する。非合法雇用者の負傷・死亡人員が関連行政部門が発行した非合法雇用処理意見を提出出来ない場合、裁判所は調査を経て判明した事実及び「非合法雇用者の負傷・死亡人員の一時金賠償弁法」の規定に基づき、非合法な雇用関係の成立を認定し、それにより非合法雇用者の賠償責任を確定する。

解説: 「非合法雇用者の負傷・死亡人員の一時金賠償弁法」によれば、非合法雇用者の負傷・死亡人員とは、「営業許可証を有しない又は法的に登記・備案していない会社、及び法により経営を取り消された会社において、事故または職業病により傷病を被った従業員、若しくは雇用者の雇用した少年労働者で負傷または死亡した者」を指します。この場合、雇用関係の主体(雇用者と労働者)が「労働契約法」に定められた資格要件を満たさないため、そもそも労働関係を有していると見なされず、「労働契約法」の適用対象にはならないことが分かります。「労災保険条例」第66条には「非合法雇用者における負傷・死亡人員の賠償金額に関係する争議は労働争議の関連規定に基づき処理する」と定められております。但し、賠償金以外の非合法雇用の認定、賠償責任の有無などに関する争議を労働争議として取扱うかどうかについては明確には定められていません。
今回『回答』第11条により、非合法雇用の認定、賠償責任の有無に関する判断も労働争議の範囲に入り、裁判所が直接処理することができることが明確にされました。

3. 『回答』 第12条
問題: 「労災保険条例」中にある「前年度」はどのように認定されるか。

回答: 従業員の労災保険待遇(労災待遇)を計算する際、「当該地区の前年度従業員平均給与」、「当該地区の前年度従業員月平均給与」を参照して計算する必要がある場合、当該従業員の労災発生時の前年度従業員平均給与により認定する。

解説: 「労災保険条例」及び「広東省労災保険条例」において、前年度従業員平均給与が補助金等の計算基数とされていますが、この「前年度」の基準となる日は、事故発生日なのか、労災認定日または障害程度の評価日であるかについては、法律上明確な規定がありません。また、前年度従業員平均給与は年末・年初に公表されず、通常統計局より毎年6月に公表されるため、6月以前の前年度給与は実際には2年前のものとなり、6月以降が前年度のものとなります。実務上、6月以前に発生した労災事故について、先ず公表済みの前年度給与(実際には前々年度の平均給与)に基づき計算し、6月以降前年度平均給与の公表後、その差額を追加で支給すべきという見解が散見されます。認識を統一し、訴訟案件を減少させるため、『回答』第12条は、この「前年度」が労災発生時の前年度従業員平均給与であることを明記しています。

4. 『回答』 第13条
問題: 定年退職年齢に達した人員が再雇用され、雇用者での勤務期間において業務上の原因により事故に遭った場合の処理原則はどのようなものか。

回答: 定年退職年齢に達した人員が再雇用され、雇用者での勤務期間において業務上の原因により事故に遭い、傷害を負う又は職業病を発症して、労働行政部門に労災認定された場合、「労災保険条例」を参照して処理する。労災認定されていない場合、裁判所は人身損害賠償の関連規定に基づき処理すべき旨を申請者に告知する。申請者が労災保険待遇により処理すると主張する場合、裁判所はその訴訟請求を却下する。

解説: 「労働契約法」第44条第2項*1、「労働契約法実施条例」第21条*2、「広東労働争議座談議事録」第11条*3及び「深セン労働争議裁判手引」第56条*4の規定によると、労働者が定年退職年齢に達した時点、若しくは基本養老保険待遇を享受する時点で、労働契約が終了します。即ち、定年退職年齢に達した人員は労働者としての主体資格が不適格であり、このような人員を雇用する場合、労働関係の成立ができず労務関係となります。
また、「広東省労災保険条例」第65条には、「労働者が法定定年退職年齢に達した、若しくは基本養老保険待遇を享受した場合、本条例を適用しない。前条に定めた労働者が雇用者での勤務期間において業務上の原因で人身傷害を受けた場合、本条例の労災保険待遇基準を参照し、関連費用の支払いを雇用者に要求することができる。損害賠償金額に争議がある場合、民事訴訟により解決する」と定められています。
但し、最高人民法院「労働争議案件の審理における法律適用に関する若干問題の解釈(三)」第7条*5によると、法定定年退職年齢に達したものの基本養老保険の享受を受けていない人員が労働関係にあり、勤務期間内に業務による原因で受けた人身傷害は労災として処理すべきと認識され、実務上では、行政訴訟と民事訴訟で全く異なる判決が出されたケースがあります。
『回答』第13条は、定年退職年齢に達した人員について、雇用者と成立するのは労働関係ではなく労務関係になるため、民法の契約法及びその他の民事法律を適用することとなり、基本養老保険待遇の享受を受けているかどうかを問わず、「広東省労災保険条例」第65条の規定を適用し、民事訴訟プロセスにより処理しなければならないことを改めて強調しています。

注釈:
*1 「労働契約法」第44条第2項
次の各号に揚げる事由の一つに該当した場合、労働契約が終了する。
(2)労働者が法律通りに基本養老保険の待遇を享受し始める場合。

*2 「労働契約法実施条例」第21条
労働者が定年退職の年齢に達した時、労働契約が終了する。

*3 「広東労働争議座談議事録」第11条
雇用者が定年退職年齢を達したが基本養老保険の待遇を享受していない若しくは年金を受給していない労働者を雇用した場合、双方の関係は労務関係により処理する。

*4 「深セン労働争議裁判手引」第56条
雇用者が雇用した定年退職年齢に達した人員との間に労働争議が発生した場合、労務関係に基づき処理するべきである。

*5 「労働争議案件の審理における法律適用に関する若干問題の解釈(三)」第7条
雇用者が雇用した養老保険待遇を享受又は年金を受給している人員との間に労働争議が生じて、裁判所に提訴する場合、裁判所は労務関係に基づき処理する。

 (2017年9月作成)

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