【中国】判例解説講座① 使用者からの労働契約の一方的解除について

日系企業が人事労務において陥りやすい労働法、労働契約法等の解釈・運用について、最新の紛争事例、裁判事例を基にNAC名南所属中国弁護士が整理・解説する。第1回は、使用者からの労働契約の一方的解除を規定する労働契約法第40条について解説する。

1. 労働契約法第40条の内容

労働者、使用者において、一旦締結された労働契約を使用者から一方的に解除することは、労働契約法上、一定の事由がある場合に限られる。労働者に重大な過失がある場合の一方的解除を労働契約法第39条が規定し、業績不振等による整理解雇(※)のための一方的解除を労働契約法第41条が規定している。労働契約法第40条では、整理解雇に該当しない場合で、かつ、労働者に重大な過失がない場合の解除事由について規定している。特に、同条第3号は、その内容が明瞭でないことから、労働者と使用者の間で労働紛争を招き易い。

労働契約法 
第40条 以下に掲げる事由に一つでも該当する場合は、使用者は30日前までに、労働者本人に
書面により通知し、又は1カ月の賃金を支払うことで労働契約を解除することができる。
(三)  労働契約時の締結時に根拠とした客観的状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が
不可能になり、使用者は労働者との協議後も、労働契約変更について合意に達しない場

 ※労働契約法第41条の整理解雇における労働契約の一方的解除は、①企業破産法の規定によって企業再生を行う場合等において、②人員削減の対象となる労働者が20人以上又は企業労働者総数の10%以上であり、③使用者が30日前までに労働組合又は全労働者に対して状況を説明し、労働組合又は労働者の意見を聴取し、人員削減案を労働行政部門に報告したうえで認められる等厳しい要件となっている。

2. 実際の紛争事例

<事例(広州市)>
広州市に所在する、ある外商投資企業X社は、業績不振により数年間赤字が続いているため、内部組織を再編し、一部の部門を廃止することを決定した。翌日、この内容を労働組合に届け出た上で、「客観的状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能になった」(労働契約法第40条第3号)という理由で、経済補償金と代通知金(解雇の30日前に解雇通知をしない代わりに支払う1ヵ月分の給与)を支給した上で、書面通知により、A氏を含めた労働者との労働契約を一方的に解除した。その後、A氏は、当該労働契約解除は、労働契約法40条第3号の要件を満たしておらず違法と主張し、仲裁、訴訟を提起し、違法解雇による賠償金を請求した。

<裁判所(広州市中級人民法院)の判断>
本案件は、労働仲裁、1審を経て、裁判所(広州市中級人民法院)は労働者の主張を支持し、使用者は、違法解雇による賠償金を支払わなければならない。

<理由の要旨>
「客観的状況」とは不可抗力又は企業の住所移転、分立、合併、買収などを指す。使用者による市場経済環境の変化への対応、経営管理の必要に応じた社内の内部組織再編等は通常の経営活動の一環で主観的な調整であり、客観的な状況に重大な変化が生じたとはいえない。また、労働契約法第40条第3号による労働契約の解除は、客観的な状況に重大な変化が生じただけではなく、その変化によって「労働契約の履行が不可能」と認められる必要がある。本件の場合、会社が合理的な職場調整案に基づき十分な協議を経ず労働契約を解除したのは、違法解雇となり、賠償金を支払わなければならない。

3. 解釈のポイント、まとめ

労働契約法第40条第3号に基づき労働契約を解除する場合は、以下の条件を満たす必要がある。①労働契約締結時に根拠とした客観的状況に重大な変化が生じた。
②その変化によって労働契約の履行が不可能になった。
③使用者が労働者と労働契約の変更について協議したが、合意に達しない。

「『労働法』の若干条文に関する説明」第26条に、「客観的な状況とは、不可抗力若しくは企業移転、
買収、資産譲渡等のような状況により、労働契約の全部又は一部が履行できない場合を指す」と明確に規定している。広東省の裁判実例によれば、企業が当局の政策等によって止む得ず移転を迫られた場合、又は他の企業から買収が行われた場合等を、客観的な状況として認定する一方、企業の業績不振又は経営戦略上の理由に基づく組織・部署変更等は、主観的な経営策略であり、客観的な情況の変化とは見なされないと判断されている。

また、使用者は客観的な状況に重大な変化が生じた場合であっても、その変化によって、双方の労働契約を継続して履行できないことを証明しなければならない。例えば、企業合併の場合は、これより元の職場が完全に廃止される等、労働契約の履行が現実的に不可能であることを証明する必要がある。
そして、上記の要件を満たした後、労働契約の変更について使用者が合理的な変更案を労働者と十分に協議し、協議の結果、合意に達しない場合に、経済補償金と代通知金(又は30日前の解雇通知)を支給した上で、はじめて労働契約を解除することができる。すなわち、当事者の事前協議は労働契約解除の前提条件となる。実務上、「客観的状況に重大な変化」が認められたに関わらず、事前協議を行わなかったため、最終的に違法解雇と認定されたケースも多く存在する。

本事例は、企業が労働契約法の規定する「客観的状況に重大な変化」があった場合を、企業が自己にとって都合のよい解釈を行ったために違法解雇と認定された典型的な事例である。違法解雇と認定された場合は、経済賠償金の支払(経済補償金の2倍)が必要になるだけではなく、そもそも違法解雇であることから、その労働者が継続雇用を希望する場合は、継続雇用の義務も生じる。違法解雇として、経済賠償金を支払うことにより、労働契約を一方的に終了することができるわけではないことにも注意が必要である。

以上を踏まえると、使用者が経営不振により労働者を解雇する場合、安易に労働契約の一方的解除を行うべきではなく、労働者との協議による合意解除をまず選択すべきであり、やむを得ず一方的解除を行う場合であっても、その要件が規定の要件を満たすかどうか慎重に見極め、かつ、労働者との事前協議を十分に行う必要がある。

(2019年4月作成)

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